来世で会いましょう/小路啓之

コミックシーモアからあらすじ

ボクは精神的引きこもりの近松ナウ。特技は<時間差攻撃型衝動行動>平たく言うと“気が弱くてその場では怒れず数年経って妄想が極限に達したときにキレて破壊行動する”というクセだ。そんなボクが絶対の自信を持つのは『絶対に騙されない』こと。だってボクが女だったらボクみたいな男は絶対好きにならないからな! なのに、美少女転校生・かぴあがマンガみたいな思わせぶりな態度を取るんだけど……!? だ、騙されないと言ったら騙されないからな!! 小路啓之的恋愛世界、第1巻!

 

よかったねー。小路啓之作品はごっこ、メタラブ、イハーブ(途中)に続いて4作目だけど、ごっこの次に好きかも。<時間差攻撃型衝動行動>とか、7回目?の転生の話とか、かぴあが愛してるナウの来世体とか、興味惹かれる設定が案外掘り下げられずにあっさり終わった感はあるけど、そこは別にあんまり気にならない。というか、なんか、そういう設定とかキャラとか、それこそ背景とかもだけど、色んなものがごちゃごちゃ氾濫してる感じが好みなのかな。

 

小路啓之ワールドというか、彼が好きなものがいたるところに配置されて、ネジが数本飛んだ感じのキャラが絡み合って動き回る物語で、力量が足りない漫画家だとなんだこれってなるような感じなのに、これはえらく読みやすい。まあ正直イハーブは相当読みづらい(から積んでる)けど、その後何年も鳴かず飛ばずだったイハーブの反省を経て、多分自分自身の世界を読者にチューニングできるようになったってことなんだろうな。しかもイハーブの時点であった自分の色を失わずにってのが素晴らしい。

 

後はやっぱりキャラがいい。あんなじゃじゃ馬みたいなキャラをちゃんと物語に乗せて、最後にはなんだかんだでいいやつらだったな・・・みたいに思わせるのは本当にすごい。最後の結末もどんでん返しだけど、正直あのキャラならむしろそういうどんでん返しみたいな展開が日常的に起きてもおかしくないわけで、むしろ最後の最後までギリギリの小康状態というか、なんか変だけどすんでのところで耐えて同じテンポでラブコメやれてるのが、天性のバランス感覚なんだろうなって。

闘争領域の拡大/ミシェル・ウェルベック(中村佳子訳)

なるべく毎日書くぞ!と思ってたのに気づいたら普通に一週間経っててビビる。自分の憧れ人間(しかもその中でも高野秀行とか森博嗣みたいに少なくとも自分では絶対なれないだろっていうのと比べればまだ実現可能性が高い部類)の一人の書評ブログやってる冬木糸一さんが、実は今の洗練されたスタイルにたどり着く前は結構だらっとした感じでブログ書いてたのを見て、なんかとりあえず書くのって大事なんだなって思ったから書いてるわけだが。しかし暇な時間まみれの今でも無理なのに就職したら書けるわけなくない?てか、その前に読めなくない?とりあえず週休三日制はよ導入してくれ。

 

あらすじ?

自由の名の下に闘争が繰り広げられる現代。若者たちは出口のない欲望の迷路に陥っていく。著者の問題意識が凝縮された小説第一作。

内容はひとまず置いといて、文体が結構好みだった。ただ目の前にあるものを記述して、それ短文で繋いでいく。システマチックな(かといって無駄を省くわけではなくて、所々固有名やら冗長な言い換えみたいなのが挟まって、その辺が多分気持ちいい)文章で、主人公の干からびた心がよく表れてると思える感じだし、そのシニカルな視点から見た現実の闘争の滑稽さが、読んでて心地が良かった。なんか、自分が好みなタイプのネットの文章に似てるって読んでる時思ってたけど、これは順序が逆のやつで、多分その人たちがウェルベックとかその系列の影響を受けてるってことなんだろうね。ラノベのぼっち系主人公の語りに通じる部分は、あるっちゃある気はするけど、あっちにはある世の中への(捨てきれない期待ゆえの)反発とか、若さゆえのたまの羽目外しみたいなものが皆無。ぼっち系主人公が、実は物語の世界の主人公じゃなくって、灰色どころか無色の青春を過ごして、で、そのまま何も得ずに全てをあきらめなり果てた姿、って言われたらちょっとしっくりくるかも。

 

内容は最初はまじめな会社員的likeな、東京社会解体新書的な感じか?と思ったけど、この主人公、こういうのにありがちな自意識がなく、ただひたすらに周りを穿った視点から平等に俯瞰していく。ただ、自意識はないけど、快不快とかの原始的な感情とか生理的欲求は存在していて、それを斜に構えた描写の中にポンポン入れ込むから変な感じの笑いが生まれるし、主人公への親しみやすさも生んでるとは思う。二部冒頭のオフィスでの情報処理課の人たちとの(主に水面下での)応酬はこの本の一番面白い要素が出てる、と個人的には思う。

 

 

で、なんかそのまま進んでいくのかなと思ったら、二部後半から弱者男性の話メイン(omisoもたっぷり)になる。ああ、闘争領域ってそれも確かにそうかもね。まあ、この辺は内容的に人を選びそうだけど、こんな最近のTwitterのトレンドみたいな話を30年前にやってるのすごい(?)とかいう月並みな感想にはなる。主人公も後半くらいからだんだんおや?という感じになってくるし。実際、こういう斜に構えた冷笑芸みたいなのって一生続けるの無理なんすかね。

 

三部はまあ、読んでください。個人的には前半の方が好みだけど、でも後半の書き方はそんな変わんないし、直接表現するわけでもないけど、どうしようもなく終わっていく感じも嫌いではない。総じてかなり満足だったので次は新しめのやつとかも読んでみようかな。

 

超時空要塞マクロス 23話~29話

(ネタバレ有)

もう見始めてから1年くらい経ってる。毎回見始めるのが腰が重くて、でも途中でお、割とおもろいかもってなって、最後やっぱり眠くなるのがお決まりの流れ。

 

23話 ドロップアウト

カムシン味方打つの容赦ないねー。全体的に言えるけど、人の命が軽いんだよな。湿っぽい話とか、重苦しい演出に慣れた身からすると新鮮。

 

25話 バージン・ロード

さすがに草生えます。マックスはパイロットセンスがSSSなだけじゃなくて、ゲームもできるし、女を口説くのもお茶の子さいさいんだねマックス先輩まじぱねぇっす。1話で敵女将軍と出会って、交際して、結婚までやるのすごすぎないか。1クールアニメですらこんなことしないのに、全36話でこれってどういうバランス感覚してるんですかね・・・

 

26話 メッセンジャー

普通に見ごたえあった。共闘展開はやっぱり熱いし、そこに至るまでの流れも今までの話踏まえててちゃんとしてた。しかし、ゼントラーディの参謀と将軍の2人は序盤からずっと物分かりが良いよね、なんかあんま見ないタイプの敵キャラだ。それと、今回の基幹艦隊に反旗を翻すシーンは、実際選択肢はないとはいえ、腹の座り方とか切り替えの早さがマジですごい。軍人というか武士というか。なんか普通に見習いたいマインドセットですわ。

 

27話 愛は流れる

は????????????????????????こんなこと後10話残してやっていいの?すごい面白いけど、それはそれとして、この後なにすんの?今までで一番びっくり。やっぱりバランス感覚が違いますわ。

 

28話 マイ・アルバム

あーなるほど。復興とか、ゼントラーディとの軋轢とか融和とかそういう話をやっていくのね。場合によってはエピローグで流してはいおしまいでもおかしくない題材で、そこを丁寧に描写するっていうのは割といいかもなとは思うけど、それはそれとして後10話近くあるってマジ?

 

29話 ロンリー・ソング

なんか序盤のもっさりテンポが戻ってきた。てか、前話でミンメイと兄さん喧嘩して別れたのに、いつの間にか一緒にいて、かつもう一回同じ内容で喧嘩するのなんなんだ。まあ、現実ではそういうのよくある気もするけど。ミンメイがようやく自我に目覚めて悩みだしたのはいいんだけど、あまりにもようやくすぎる。内面をねちょねちょ描く作品好きだからもっと早くからいっぱいやれよとは思うけど、まあそれ求める作品ではないのもさすがにもうわかってる。

 

次回はいつになることやら。ΔとかFの劇場版も見たいし、早く終わらせたいね。

誰がために鐘は鳴る上/ヘミングウェイ(高見浩訳)

こういうのって描かれた経緯とか、作者の評価とか立ち位置みたいなのをある程度頭に入れて読むのとどっちがいいんすかね。大体、頭に入れてから読んだ方が面白いとは思うんだろうけど、まあ、そういうの聞いちゃうと読みが固定されるか、まあ、そこまではいかなくても何も知らない状態とは違う読みになるのは間違いないわけで。

 

とはいえ、何も知らない状態で自分が考えることが別に大したことないから気にせず頭に入れて読めばええんじゃないのって気がしてきた。

 

なんかさ、会話表現のうまさとか、キャラ描写のうまさとか、その辺をもうちょっと解像度上げて理解するために、創作まではしなくとも、創作論的なものにちょっと触れたくなってきた。なんかいい本とかないですか。

 

でもなー、自分の目にあまりにも信用がない(というか人の言ってることをへーそうなんだってすぐ受け入れちゃう。だから、例えば前情報としてヘミングウェイの文章は格調高いんだって言われたらなるほど確かに!と思っちゃうし、平易で分かりやすいって言われたら、それも確かに!ってなっちゃうんだよな。ていうかそもそも訳文だし。これって、面白かったらヘミングウェイ褒めたらいいの?それとも高見浩を褒めるの?わからないから文章自体を褒めることにします。どっちがすごいのかは知らん。

 

・大人数で酒飲みながらがやがや喋ってるところ、正直例えとか、話の内容はピンとこないやつもあるけど、それでもがやがや感というか、本当にそこで喋ってる感じを出すのは上手いと思った。

 

・アンセルモ絶対死ぬと思った。なんか裏切る伏線みたいなのあってずっと身構えてたけど、普通にいいじーちゃんだったわ。アンセルモの独白人柄の良さがにじみ出てて好きなシーンだな。主人公の独白は正直あんまピンとこなかった。堅物が愛に目覚めてってことなんだろうけど、この主人公の主義信条とか、過去とか、ほかのキャラに比べてあんま掘り下げられないから今んところピンとこない。

 

・町の革命のシーンは結構しんどかった。これって実話をもとにしてる感じなんですかね。

 

・ピラールのキャラがすごくいい。一番イメージに近いのは、ラピュタの。彼女の面白いのは過去だな。過去のエピソードが今目の前のそのキャラクターを形作っている感じ、がすごくいい。回想の語りもうまい。それでいうと、同じ理由でパブロも結構好きだけど、立場上ボロクソいわれててかわいそう。

 

 

・SEXシーンにも品というか、格調があるね。SEXシーンはやっぱり、段々高まってく感じを文章で表現するために、勢いというか、盛り上がりの演出が必要なんだと思うけど。春樹君が「あ、あああああああっ」とずっと言ってたけど、ヘミングウェイは「虚無へ ひたすら虚無へ もはや耐え切れず高みへ」って感じだもんな。いろんな表現があるんやね。

いや別に、比べてどっちが良いとかって話しするわけじゃなくて、なんか面白いねってだけ。あと、大地が動くって表現いいね。

 

まだ鐘はなってないけど、多分最後に鳴るんでしょうね。正直、ここまでは前夜祭みたいなもんで、みんな死んでくんだろうし、続き見たいような見たくないような。

逢魔が時に逢いましょう/萩原浩

 

Amazonからあらすじ

大学4年生の高橋真矢は、映画研究会在籍の実力を買われ、アルバイトで民俗学者・布目准教授の助手となった。布目の現地調査に同行して7月の遠野へ。取材対象が現れたら、姿を映像か写真に記録したいという布目の希望により、“座敷わらし"を撮影するため、子どもが8人いる家庭を訪問。スイカを食べる子どもを数えると、ひとり多い!?「座敷わらしの右手」より。ハンサムらしいが風変わりな大学教授と、映画製作を夢見てアルバイトに励む女子大生の迷コンビ。座敷わらし、河童、天狗と日本人の心に棲むあやしいものの正体を求めての珍道中を描く連作「座敷わらしの右手」「河童沼の水底から」「天狗の来た道」を収録。ふたりに芽生えた恋の行方も読みどころの、笑いと涙のなかに郷愁を誘うもののけ物語。

 

相当読みやすい。この読みやすさってのは平易な言葉選びってのもあるし、髪ぼさぼさで、ちょっとデリカシーがなくて、でも研究のことになると目の色変わっちゃう若手の隠れハンサム准教授っていう、なーんかどこかできいたことありそうなキャラ設定とか、出てくる日本史知識やら古典知識が高校範囲で収まってるところとか、読み手に負荷がかからないように全方面で気を配ってくれてるからなんだろう。そもそも出てくる妖怪も、座敷童に、河童に、天狗だもんね。そりゃ読みやすいわ。そういえば、自分の好きな書評書く人が文章の読みやすさ、の意味でよくリーダビリティって言葉使ってたね。これって漫画とかでも使っていいのかな。

 

読みやすさ以外だと、ちょっと面白かったのは、やけに出てくる妖怪と直接接触しようとするところ。座敷童を幼稚園のお遊戯のこの指とまれみたいなやつで捕まえるのは普通になるほどーと思ったけど、河童を釣ろうとしたり、ひもで引っ張ったりするの割と新鮮かもしれん。もうちょいおっかなびっくり扱いそうなもんだけど。

 

内容だと、正直もうちょい各妖怪とか村での絡みを描いてくれたらなーという気持ちはある。あっさり楽しめるんだけど、もうちょい謎とかなんならホラー要素とかあるほうが個人的には好みかな。

 

全体的にいつもの萩原浩の感じの、あったかヒューマンストーリー路線だったとは思うんだけど、似た感じのだと『オロロ畑で捕まえて』の方がもうちょい笑えた気もする。なんか、同じヒューマンストーリでも、『さよならバースデイ』『明日の記憶』辺りの泣ける作品の方が質高い気が個人的にはしてるんだけど、実際どうなんだろう。正直読んだのが昔過ぎてあんまわからん。

 

 

後は、なんか主人公の胸の描写とか野ションの描写が、なんとなくキモかったね。別に大した分量があるわけでもないし、本当にさらっと描かれてたけど、なんか、さらっと描かれるからこそのキモさみたいな。透けて見える(結構お行儀はいいけど)おじさん臭さなんですかね。

 

しかし、こんな道楽みたいなやり方で妖怪の研究やってて、28歳かそこらで准教授になってってのは羨ましい、、、という感情が出てこない程度にはそこはフィクションやね。一応道楽やりだしてからは左遷されてるみたいな話はあったけど、でもお給料もらってるんでしょいいなあ。こういうの高校で読んじゃうとうっかり研究したくなっちゃうよね。ていうか、自分は大学入ってからも一時期妖怪の研究したいなーとか思ってたんだよな。さすがに妖怪そのものは無理だから、教育と絡めて学校の怪談の歴史研究みたいな感じで。そしたらなんかそれっぽい先行研究があって、それ読んでたら満足しちゃった。

『学校の怪談』はいかに読まれているか (jst.go.jp)

子どもが語る「学校の怪談」の内容分析 (jst.go.jp)

 

ていうか普通に『明日の記憶』は自分の中でベスト級の作品として脳で固定されてるけど、『逢魔が時に逢いましょう』がこの感じだと今読んだらそんなことないのかもしれん。なんか怖くなってきたけど読み返すかー