闘争領域の拡大/ミシェル・ウェルベック(中村佳子訳)

なるべく毎日書くぞ!と思ってたのに気づいたら普通に一週間経っててビビる。自分の憧れ人間(しかもその中でも高野秀行とか森博嗣みたいに少なくとも自分では絶対なれないだろっていうのと比べればまだ実現可能性が高い部類)の一人の書評ブログやってる冬木糸一さんが、実は今の洗練されたスタイルにたどり着く前は結構だらっとした感じでブログ書いてたのを見て、なんかとりあえず書くのって大事なんだなって思ったから書いてるわけだが。しかし暇な時間まみれの今でも無理なのに就職したら書けるわけなくない?てか、その前に読めなくない?とりあえず週休三日制はよ導入してくれ。

 

あらすじ?

自由の名の下に闘争が繰り広げられる現代。若者たちは出口のない欲望の迷路に陥っていく。著者の問題意識が凝縮された小説第一作。

内容はひとまず置いといて、文体が結構好みだった。ただ目の前にあるものを記述して、それ短文で繋いでいく。システマチックな(かといって無駄を省くわけではなくて、所々固有名やら冗長な言い換えみたいなのが挟まって、その辺が多分気持ちいい)文章で、主人公の干からびた心がよく表れてると思える感じだし、そのシニカルな視点から見た現実の闘争の滑稽さが、読んでて心地が良かった。なんか、自分が好みなタイプのネットの文章に似てるって読んでる時思ってたけど、これは順序が逆のやつで、多分その人たちがウェルベックとかその系列の影響を受けてるってことなんだろうね。ラノベのぼっち系主人公の語りに通じる部分は、あるっちゃある気はするけど、あっちにはある世の中への(捨てきれない期待ゆえの)反発とか、若さゆえのたまの羽目外しみたいなものが皆無。ぼっち系主人公が、実は物語の世界の主人公じゃなくって、灰色どころか無色の青春を過ごして、で、そのまま何も得ずに全てをあきらめなり果てた姿、って言われたらちょっとしっくりくるかも。

 

内容は最初はまじめな会社員的likeな、東京社会解体新書的な感じか?と思ったけど、この主人公、こういうのにありがちな自意識がなく、ただひたすらに周りを穿った視点から平等に俯瞰していく。ただ、自意識はないけど、快不快とかの原始的な感情とか生理的欲求は存在していて、それを斜に構えた描写の中にポンポン入れ込むから変な感じの笑いが生まれるし、主人公への親しみやすさも生んでるとは思う。二部冒頭のオフィスでの情報処理課の人たちとの(主に水面下での)応酬はこの本の一番面白い要素が出てる、と個人的には思う。

 

 

で、なんかそのまま進んでいくのかなと思ったら、二部後半から弱者男性の話メイン(omisoもたっぷり)になる。ああ、闘争領域ってそれも確かにそうかもね。まあ、この辺は内容的に人を選びそうだけど、こんな最近のTwitterのトレンドみたいな話を30年前にやってるのすごい(?)とかいう月並みな感想にはなる。主人公も後半くらいからだんだんおや?という感じになってくるし。実際、こういう斜に構えた冷笑芸みたいなのって一生続けるの無理なんすかね。

 

三部はまあ、読んでください。個人的には前半の方が好みだけど、でも後半の書き方はそんな変わんないし、直接表現するわけでもないけど、どうしようもなく終わっていく感じも嫌いではない。総じてかなり満足だったので次は新しめのやつとかも読んでみようかな。