逢魔が時に逢いましょう/萩原浩

 

Amazonからあらすじ

大学4年生の高橋真矢は、映画研究会在籍の実力を買われ、アルバイトで民俗学者・布目准教授の助手となった。布目の現地調査に同行して7月の遠野へ。取材対象が現れたら、姿を映像か写真に記録したいという布目の希望により、“座敷わらし"を撮影するため、子どもが8人いる家庭を訪問。スイカを食べる子どもを数えると、ひとり多い!?「座敷わらしの右手」より。ハンサムらしいが風変わりな大学教授と、映画製作を夢見てアルバイトに励む女子大生の迷コンビ。座敷わらし、河童、天狗と日本人の心に棲むあやしいものの正体を求めての珍道中を描く連作「座敷わらしの右手」「河童沼の水底から」「天狗の来た道」を収録。ふたりに芽生えた恋の行方も読みどころの、笑いと涙のなかに郷愁を誘うもののけ物語。

 

相当読みやすい。この読みやすさってのは平易な言葉選びってのもあるし、髪ぼさぼさで、ちょっとデリカシーがなくて、でも研究のことになると目の色変わっちゃう若手の隠れハンサム准教授っていう、なーんかどこかできいたことありそうなキャラ設定とか、出てくる日本史知識やら古典知識が高校範囲で収まってるところとか、読み手に負荷がかからないように全方面で気を配ってくれてるからなんだろう。そもそも出てくる妖怪も、座敷童に、河童に、天狗だもんね。そりゃ読みやすいわ。そういえば、自分の好きな書評書く人が文章の読みやすさ、の意味でよくリーダビリティって言葉使ってたね。これって漫画とかでも使っていいのかな。

 

読みやすさ以外だと、ちょっと面白かったのは、やけに出てくる妖怪と直接接触しようとするところ。座敷童を幼稚園のお遊戯のこの指とまれみたいなやつで捕まえるのは普通になるほどーと思ったけど、河童を釣ろうとしたり、ひもで引っ張ったりするの割と新鮮かもしれん。もうちょいおっかなびっくり扱いそうなもんだけど。

 

内容だと、正直もうちょい各妖怪とか村での絡みを描いてくれたらなーという気持ちはある。あっさり楽しめるんだけど、もうちょい謎とかなんならホラー要素とかあるほうが個人的には好みかな。

 

全体的にいつもの萩原浩の感じの、あったかヒューマンストーリー路線だったとは思うんだけど、似た感じのだと『オロロ畑で捕まえて』の方がもうちょい笑えた気もする。なんか、同じヒューマンストーリでも、『さよならバースデイ』『明日の記憶』辺りの泣ける作品の方が質高い気が個人的にはしてるんだけど、実際どうなんだろう。正直読んだのが昔過ぎてあんまわからん。

 

 

後は、なんか主人公の胸の描写とか野ションの描写が、なんとなくキモかったね。別に大した分量があるわけでもないし、本当にさらっと描かれてたけど、なんか、さらっと描かれるからこそのキモさみたいな。透けて見える(結構お行儀はいいけど)おじさん臭さなんですかね。

 

しかし、こんな道楽みたいなやり方で妖怪の研究やってて、28歳かそこらで准教授になってってのは羨ましい、、、という感情が出てこない程度にはそこはフィクションやね。一応道楽やりだしてからは左遷されてるみたいな話はあったけど、でもお給料もらってるんでしょいいなあ。こういうの高校で読んじゃうとうっかり研究したくなっちゃうよね。ていうか、自分は大学入ってからも一時期妖怪の研究したいなーとか思ってたんだよな。さすがに妖怪そのものは無理だから、教育と絡めて学校の怪談の歴史研究みたいな感じで。そしたらなんかそれっぽい先行研究があって、それ読んでたら満足しちゃった。

『学校の怪談』はいかに読まれているか (jst.go.jp)

子どもが語る「学校の怪談」の内容分析 (jst.go.jp)

 

ていうか普通に『明日の記憶』は自分の中でベスト級の作品として脳で固定されてるけど、『逢魔が時に逢いましょう』がこの感じだと今読んだらそんなことないのかもしれん。なんか怖くなってきたけど読み返すかー